宮津大輔さんの著書「現代アート経済学(2014年/光文社新書)」を読んだ。著者の宮津さんは会社に勤めながら現代アートをコレクションをしてきた日本人のアートコレクターだ。
私は現代アート作品を購入したことがなく、コレクターの目線というものが気になってこの本を手に取ったが、読んでみるとその行動力や知見に驚かされるばかりだった。
宮津さんは会社員でありながら、国内外の芸術祭やアートフェア※(※ギャラリーが一同に集まり展示販売を行う催し。訪れた顧客が作品を見て回り買うことができる)に自ら出向き、作家やギャラリスト、コレクターと交流して作品や動向を知る。その会話や質問の様子も本書では鮮明に描かれている。
また、今までアート界を引っ張ってきた欧米だけでなく近年のアジアやインドネシアのアート・経済動向などにも詳しい。読んでいて驚いたのは芸術祭の収支なども含めた様々な経済動向を把握されていることだ。
本書では芸術祭(ヴェネツィア・ビエンナーレ、ドクメンタ、光州ビエンナーレ、横浜トリエンナーレ、あいちトリエンナーレ、瀬戸内芸術祭)の成り立ちや、パトロン文化、各国のキープレーヤーやコレクターなどアートと経済をめぐる様々なことが書かれている。
アートコレクションとは言い換えると国の資産や文化でもあり、各国の特徴や日本の現状も関係してくる。
だからこそ、アートはいまいち自分には関係と思っている人にも読んでもらいたいと思った。
「コレクションは未来を創り出し、それ故に文化は伝承される」
読んでいて、以前見たアートコレクター夫婦のドキュメンタリー映画「ハーブアンドドロシー」を思い出した。
映画主人公の老夫婦は富裕層ではないが、アーティストと作品を愛し、交流することで作品を膨大にコレクションした。宮津さんにも、そのような優しい思いや目線を感じる。
芸術のコレクションというものは古くは王室や大名などが行ってきたが、いまは富裕層や企業だけでなく、誰でもできる。けれど日本ではその文化が大衆に根ざしていないと感じている。
それはどうしてかと考えると、日本ではアーティストや作品の注目が「すでに認められている人」「価値が確立しているもの」に向かっているからではないかと思う。
作品や展示が成り立ち、価値付けされて行くには、アーティストと作品だけでなく後ろに多くの人の手が必要だ。
展示するギャラリーや美術館、体系立てて展示を組み立てるキュレーター、ギャラリスト、運搬や保管を行う企業、批評家、コレクター、観客など。そこには勿論経済も絡み、世界には資産や投資としての価値をアートに見る人も数多く居る。
作品を文化として残し、守っていくには知ることが大切だ。
そのきっかけとして本書をお勧めしたい。
私もアートの価値付けを少しでも担えるような知識と行動力を持ちたいと思わされた。
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