次世代を担う若手アーティスト達の『BARRACKOUT バラックアウト』感想




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バラックアウト展。Twitterで話題になるという現象自体も気になりながら、最終日1月8日に駆け込みで展示を見てきました。

私は普段なるべく展示の初期に見に行って宣伝も兼ねて記事を書こうと心がけているのですが、今回は既に終わってしまった展示という事もあり主観的に感想を書きたいと思っています。

バラックアウト展はアーティスト26名が参加し、東京都江東区住吉にある一軒家を使って行われた展示でした。

外観から展示は始まっており、展示会場へ続く階段は元の民家から出た素材によって作られ、最終日、展示期間中唯一降ったという雨の中では屋外の足場は若干危険なものでもありました。

元ゴミ屋敷という民家屋内の1階と2階を使った展示は、所狭しと改造された部屋のなか作品の境目は無く、キャプションや説明も無く(※)、私は歩きながらこれをどう説明しようという気持ちにもなりました。

(※2回目以降来場された方には図面とアーティスト名、歴史と照らし合わせた年表が配布されたそうです。)

どれが誰の作品なのかわからない、けれど個々の作品の伝えたいことは真摯に作られているからわかる。それを説明不足というのか、しかし家の中に説明文があった時に萎えるような気持ちになるだろうか。歩きまわって作品を見ながら、一体どう感じようと非常に悩んでいました。

しかし2階から1階へと降りると、どこか共通したテーマのようなものも感じる。さらに2階へ戻ってもう一周して、共同で企画されたじょいともさんの言葉を聞いている内に少しずつこの展示が咀嚼されていきました。

家の記憶をテーマとした企画展『BARRACKOUT バラックアウト』を東京・江東区住吉の民家で開催します。

会場となる一軒家は、戦後同地に建てられた満州引き揚げ民の仮住まいに由来し、その後何度かの家主の交代を経て、現在ではゴミ屋敷となっています。

同展は、焦土から高度成長まで、歴史の明暗を見守ってきた家の記憶を、ゴミとともに掘り起こしながら作品化することで、閉塞感のある現代に新しい視点を接ぎ木する試みです。

企画者の一人であるじょいとも氏を依り代に、考現学の始祖である今和次郎、江戸期の浮世絵師である鍬形蕙斎らも名を連ねる、過去と現在が交錯する展覧会。
是非ご高覧ください。

この展示は1階と2階の対比で語る事も出来ます。

また現代の日本美術界についても考えるきっかけになります。

どうしてそう感じたかというと、私が強引に出したまとめが「一軒家にまとめられた、現代の日本のアート市場と日本の現状の芸術祭が凝縮されたような展示。」だったからです。

これまで私は、瀬戸内芸術祭、越後妻有大地の芸術祭、茨城県北芸術祭、さいたまトリエンナーレ、あいちトリエンナーレ、光州ビエンナーレ(韓国)、イスタンブールビエンナーレ(トルコ)に行ったことがあります。

これらの芸術祭は、近年では地域アートと呼ばれ、「その土地だから出来ること」にフォーカスされた作品が必ずあります。

例えば昨年記事にした飴屋法水「何処への手紙」は、大なり小なり茨城県北部の歴史と時間を辿る旅路であり、光州では民主主義運動の起こった地ということをステートメントに掲げ、イスタンブールではモスクなど歴史的建築物が会場になり、瀬戸内でも島々の歴史に基づいた解釈が作品に繋がっています。

バラックアウト展はというと、関東大空襲で被災し多くの人々が埋葬された歴史が作品に表れていること、この民家の歴史が紐解かれ東京のゴミと日本庭園の対比などがされていることがあります。

ここまで多くの参加者がいながら、荒削りながらも一軒家にまとまっているように見える地域アートというものを私は今まで見たことがありませんでした。

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私は東京下町に生まれ上野の闇市跡地であるアメヤ横丁や、多くの人が空襲から逃れたくて飛び込んだ隅田川、かつては処刑場だった跡地、江戸時代の遊女の投げ込み寺、今はバックパッカーが多く泊まるようになったいわゆるドヤ街などに囲まれて育ち、その自覚が小学生の頃からありました。(わからない人は調べたりスルーしてね)

色々例にあげたけれど、要するに下町の長くに渡る血の歴史。私にはそれがとても身近なものでした。

だからこそ江東区住吉の過去を知ることは、胸に刺さる痛みがあります。

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けれど作品からはこの地を知り、研究し、作品に昇華させようという気持ちを感じることが出来ました。この家の外観はかなりポップに彩られていたけれど、特に1階にある作品群はこのような空襲や住吉をテーマにしているものが多く、戦争のあった時代に生まれていなかったアーティスト達の努力が見てとれました。

対して2階は、「四ツ目アート横丁:アートの闇市」をテーマに、デザインフェスタや美術大学の学園祭のように大まかにブースに区切られた空間に所狭しと作品や看板が飾られ、絵画や小規模の立体作品を中心にアートの市場が作られており、最終日にはたくさんの作品が売約済みとなっていました。

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過去と現在、歴史、闇市と空襲、一軒家の中に(外でのパフォーマンスもありますが)それらが混在しまくることが非常に現代のアート業界の縮図のようでとても興味深い。

悪い意味でなくどうしてこのような展示になったかと聞いてみると、これは上で展示を取りまとめるキュレーターの不在が大きかったのかなと感じました。

展示のウェブサイトに「【企画運営】相沢僚一、秋山佑太、じょいとも、im9」とあるようにこの展示は4名の共同企画で成り立っています。

1階と2階の使い方や大きなテーマは設けたものの、全体でのキュレーションや個々の説明をあえて外し、「出来上がるまでどうなるかわからなかった」と語ったじょいともさん。

私は作品が集まることで「地域アート」と「アート市場」の両方をクオリティ高く見せ、現代のアートらしさが凝縮された、あえてか結果的にか「アート市場や地域アートのあり方」を問うているような良い展示だったと思っています。

洗練されていたり綺麗にまとまっていたいうよりかは荒削りな、原石のような展示でしたが、バラックアウト展は日本のアートに対する問題提起に繋がったと思います。ただそれが東京に生まれた「内の人間」だったからそう感じたのかわからず、たとえば海外から見に来た方の反応などがあれば気になるところです。

これが日本や世界のアートの文脈に語られていくかはやはり「外」の目や批評が必要で、惜しいところがある気もしますが、今後本にまとめる予定もあるとのことです。

今回は展示方法の趣旨を汲み、あえて個々の作品よりも展示全体についての感想を書かせていただきました。

私にとっては、自分が目撃してしまった事に対する運命を感じる様な展示でした。

行けてよかったです。期待を込めて皆さんの今後の活動をチェックしていきます。
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BARRACK OUT バラックアウト

【企画運営】相沢僚一、秋山佑太、じょいとも、im9

会期:2016/12/9(金)〜2017/1/8(日)
年末年始の開催日:12/30〜1/3, 1/6〜/8
時間:12:00〜20:00
入場料:500円
※お支払い後は再入場無料。

Concept

家の記憶をテーマとした企画展『BARRACKOUT バラックアウト』を東京・江東区住吉の民家で開催します。

会場となる一軒家は、戦後同地に建てられた満州引き揚げ民の仮住まいに由来し、その後何度かの家主の交代を経て、現在ではゴミ屋敷となっています。

同展は、焦土から高度成長まで、歴史の明暗を見守ってきた家の記憶を、ゴミとともに掘り起こしながら作品化することで、閉塞感のある現代に新しい視点を接ぎ木する試みです。

企画者の一人であるじょいとも氏を依り代に、考現学の始祖である今和次郎、江戸期の浮世絵師である鍬形蕙斎らも名を連ねる、過去と現在が交錯する展覧会。
是非ご高覧ください。

ARTISTS

伊/藤允彦/えとぅ/山田はじめ/弓指寛治/im9/teamA/TYM344

ACCESS

東京都江東区扇橋2-3-2 旧松田邸




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